(第10話)ここにしか咲かない花【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
5,154 view
(第10話)ここにしか咲かない花【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

~パーマカルチャー(*注)を訪ねて〜

八ヶ岳には美味しい野菜が育つ畑がたくさんありますが、それだけではありません。実は、美しい花が育つ場所でもあるようです。神奈川県の横須賀から移住した鈴木徹さんが手がける『Flowers for Lena』は、ハウス栽培ではない露地植えの花を栽培し、種蒔きから収穫、店頭販売まで一貫して行なっている地産地消のフラワーショップ。八ヶ岳の自然を活かして育てた季節の花と自家製ドライフラワーが手頃な価格で手に入ります。色も香りも、鮮度も違う!

9ではこだわりのフェアトレードコーヒーをご紹介しました。今回はここにしか咲かない「花」の話です。

(*注)パーマカルチャー:“パーマネント”(永久)、“アグリカルチャー” (農業)、“カルチャー”(文化)を組み合わせた造語。持続可能な環境を作り出すためのライフスタイルのデザイン体系のこと

畑から我が家へ!花の「Farm to table」を楽しむ

鮮度抜群の花に囲まれた暮らしで気持ちもゆったり

甲斐駒ヶ岳や赤岳、網笠山といった雄大な山々に囲まれた山梨県北杜市。町の中央を走るレインボーラインから28号線を清里方面に進んでいくと、ふと目に止まるウッディな建物。デッキに並べられた花、窓辺に吊り下げられたカゴたちに目を奪われます。通り過ぎてもUターンして立ち寄りたくなる可愛いお店『Flowers for Lenaフラワーズフォーレナ)』は、都会では手に入らない新鮮な生花やドライフラワーを扱う花の専門店です。

以前は古い牛舎を改装した店内を作業場にし、小さな屋台で販売をしていましたが、2018年に木々に囲まれた敷地内に新店舗をオープン。現在は生花だけでなく、カフェを併設した雑貨&フラワーショップとしてリニューアル・スタートしました。

「持続可能な栽培法と花の美しさに憧れ、花修行をさせていただいたことがありました」という四井千里さんのオススメの一軒。どんなお店なのでしょう。

木立の中に佇む愛らしい“花の屋台”がレナのはじまり

オープン当初、敷地の入り口に花の屋台を置いて販売をスタートした『レナ』

「最初は野菜の裏作で麦を育てていました。知り合いのドライフラワーショップから、その麦が欲しいと声がかかったのが、花とドライフラワーの店をはじめるきっかけになりました。『レナ』をはじめた頃は、店舗はなくて敷地内に花の屋台をひとつ置いて販売をしていました。そんな大変な時期もありましたが、現在では当初の想像をはるかに超え、たくさんのお客さんに来店いただくまでになりました」とオーナーの鈴木徹さん。

かつて、草原の入り口に置かれた愛らしい花のワゴンは八ヶ岳を訪れる旅行者だけでなく、地元の人の間でも注目の的でした。やがて「かわいい!何だろう」と、多くの人が車を止めて立ち寄り、スナップを撮るような八ヶ岳の隠れた名所になったのです。しかも屋台の上には他ではあまり目にすることのないような可憐でフレッシュな花々がたくさん!

『レナ』では当初から、ここでしか手に入らないような旬の生花を扱っていたことから、ローカルのアレンジメントの教室などからのニーズもあり、たちまちリピーターが増えていきました。そして屋台から店舗へと販売形態が拡張し、今では50種類くらいの植物を栽培・販売するまでになりました。

店頭には季節の花がいっぱい!ダリアだけでもさまざまなカラーが並び、どれも手頃な価格

環境に配慮した自然との共生による花栽培

花をできるだけ自然の環境の中で育てたいという思いから、完全露地栽培を行なっている

『レナ』のこだわりは、八ヶ岳南麓の標高700mという立地ならではの昼夜の寒暖差を活かした栽培法にあります。自然の恵みの中で花を作りたい、という思いからビニールハウスを使用せず、完全露地栽培を行なっています。環境に配慮しながら、種蒔きから収穫、販売までのすべてを自社で行なっています。

「化学肥料は一切使わず、堆肥も自分たちで作っています。近くに紅茶メーカーさんがあるのですが、紅茶液を抽出した後の茶殻を引き取って使わせてもらったり、鶏糞など地域から出た有機性廃棄物を使い、畑の有機肥料として還元しながら循環型の農業によって花を育てています。農薬は虫の産卵期(満月)に散布するなど最小限に抑え、なるべく自然や環境を大切にした栽培を心がけています」

「花も農作物のひとつ。お客さんには安心して花を楽しんでもらいたい」という鈴木さん。畑には雑草も自然な状態で生えていますが、必要以上に刈り取らないようにしているそうです。

「そうすることで、土の中の微生物も活発に活動してくれますし、ある程度、雑草で土が覆われることで、土中の水分の蒸発を防いでくれます。農業をやりたいと考えて八ヶ岳に移住して20年以上、試行錯誤しながらこの土地に合った栽培を模索し続けてきた結果、いろいろな発見がありました」

色・香りも生命力も違う!八ヶ岳育ちの花と暮らす

初夏、店頭にラベンダーが入荷すると店の中も外も甘くフレッシュな香りに包まれる

もともと神奈川県の横須賀出身という鈴木さん。1993年から横須賀で雑貨屋さんを営んでいましたが、農業に興味を持ち、1997年に八ヶ岳に移住しました。『フラワーズフォーレナ』という名前は当初からの店名です。

店内には花以外にも、フラワーベースや花カゴ、最近ではハンドメイドの家具類や服飾小物なども扱うようになりましたが、元雑貨店主ならではのセンスの良さが、セレクトされたアイテムひとつ一つに感じられます。都会とは一味違った温もりのあるニットや帽子、地元の職人さん手作りの食器などを目当てに、県外から訪れる人も多いそう。

一方、これから早春を迎える頃になると、『レナ』では「花農家」としての畑作業が本格的にスタートします。3月の終わりには種蒔きが始まり、冬の間に作っておいた堆肥を畑に散布したり、苗の植え付けや草取り、草刈りに追われる日々…。

そして、いよいよ5月下旬になると、1年でもっとも忙しい生花の収穫シーズンがはじまります。

青々とした麦。ほんのりナチュラルな草の香りが心を癒す

「5月下旬から麦などの収穫がはじまり、生花の第一弾、鮮やか色の芍薬を皮切りに、6月からは紅花、ひまわり、マトリカリア、スモークツリー、8月にはダリア、スターチスが旬を迎え、花々が続々と店頭に並びます。初夏には摘み取ったばかりのラベンダーの甘い香りが店いっぱいに広がって、季節の訪れを感じさせてくれます」

最近、都会の花屋さんでも季節を感じることが少なくなりましたが、店を訪れるたびに四季折々の花々を目にすることができるのも、『レナ』を訪れる醍醐味。

そして何より、その日の早朝に畑で摘んだばかりの花がダイレクトに店頭に並ぶという、他ではなかなか真似のできないこのスピード感。一般的には、花市場で競り落とされた花を処理してから店頭に並べるため、時間のロスがありますが、ここでは摘みたてのフレッシュな花を手に入れることができます。お店で購入してすぐに家に飾れば、まさに花の“ファーム トゥ テーブル”!

ドライフラワーにもなる可憐なカモミールは青リンゴのような甘い香りが楽しめる

鮮度がいいことに加え、昼夜の寒暖差によって花たちは限りなく鮮やかに色づき、香りも強く野性味にあふれているように感じられます。

メリハリのある赤、光沢のあるピンク、深いパープルなど、それらはまるで八ヶ岳の澄んだ空気が花々に魔法のヴェールをかけたような美しさ。締まった茎は鮮度の良さを表し、持ちが良いのも特徴です。

生命力に満ち溢れた、ここにしか咲かない『レナ』の花が訪れる人の五感を優しく刺激します。

自然の中で育ったドライフラワーの美しい色彩にも注目

ピンク、赤、ローズetc…。センニチコウ、ストロベリーフィールズの鮮やかさがドライフラワーの発色の良さの秘訣

花の鮮度と色づきの良さは、美しいドライフラワーを作るための好条件のひとつでもあります。『レナ』の2階にあるドライフラワールームには、天井からドライにするための花がたくさん吊るされていて圧巻。色とりどりのリースやスワッグ(壁掛け)なども飾られ、生花とはまた違ったシックな色合いに心が震えます。時間をかけて丁寧に作られたドライフラワーは、湿気や直射日光を避ければ色持ちも良いと大評判。都内の雑貨店などにも卸されています。

2階にあるドライフラワールーム。リースやスワッグも飾られている

生花の収穫がない冬の間も可憐なドライフラワーを求めて店を訪れる人が絶えない

「お客さんが手軽に楽しんでもらえる価格を設定しています」と鈴木さんが言うように生花もドライフラワーもとてもお手頃。今後は、プロテアなど日本ではなかなか栽培されていない南半球の花を育てたい、というから楽しみです。

花と雑貨のおしゃれなカフェでコーヒー&スイーツを

雑貨コーナーではフラワーベース、ニット、服飾小物などが紹介されている

落ち着いた雰囲気のカフェコーナーでハンドメイドのクッキーや自家焙煎コーヒーを召し上がれ

店内2階にはカフェコーナーもスタート。小さなキッチンやカウンター、テーブル席があり、自家焙煎コーヒーや手作りコーディアルやジャムを使ったドリンクやスイーツなどを提供しています。窓からは、八ヶ岳の雄大な山々が一望のもと。

花と自然が一体化したロマンチックなフラワーショップで過ごす癒しの花時間。

八ヶ岳を訪ねたらぜひ立ち寄ってみてくださいね。都会では手に入れることができない季節の花に出会えます。

詳細情報

Flowers for Lena

住所:山梨県北杜市大泉町西井出8240-1069

電話:0551-45-8590

営業時間:10:00~17:00 不定休

左から、四井真治さん、畑仕事や料理、家具作りなどにも積極的に取り組む四井家の長男・木水土(きみと)くんと次男・宙(そら)くん、四井千里さん

バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」を読む>>>

四井真治

福岡県北九州市の自然に囲まれた環境の中で育ち、高校の時に地元の自然が都市開発によって破壊されてショックを受けたのをきっかけに環境意識が芽生え、信州大学の農学部森林科学科に進学することを決意。同農学部の大学院卒業後、緑化会社に勤務。長野で農業経営、有機肥料会社勤務後2001年に独立。2015年の愛知万博でオーガニックレストランをデザイン・施工指導。以来さまざまなパーマカルチャーの商業施設や場作りに携わる。日本の伝統を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャー・デザイナーとして国内外で活躍中。

Soil Design http://soildesign.jp/

四井千里

2002年より都内の自然食品店に勤務。併設のレストランにてメニュー開発から調理まで運営全般に関わり、自然食のノウハウを学ぶ。2007年より八ヶ岳南麓に移り住み、フラワーアレンジメント・ハーブの蒸溜・保存食作り等のワークショップ講師、及び自然の恩恵や植物を五感で楽しむ暮らしのアイデアを提案。

記者:山田ふみ

多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。

<自然の仕組みがわかるオススメの2冊>

パーマカルチャーや土と自然のつながりがわかりやすく紹介されている『地球のくらしの絵本』シリーズ「自然に学ぶくらしのデザイン」と「土とつながる知恵」(四井真治著 農文協)ともに2,500円/税別

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田ふみ

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...
【ethica Traveler】  静岡県 袋井市の旅 おいしいもの発見!
独自記事 【 2025/3/20 】 Work & Study
日本列島のほぼ真ん中で、駿河湾を囲むように位置する静岡県。その中でも、太平洋に面する西の沿岸部に近いところに袋井(ふくろい)市があります。東西の交流地点として、古くから人や物や情報の往来を支えてきた袋井市は、高級メロンやリゾート、由緒正しき寺院など、未知の魅力がたくさんあるユニークな場所です。今回は、そんな袋井市の中で...
冨永愛 ジョイセフと歩むアフリカ支援 〜ethica Woman Project〜
独自記事 【 2024/6/12 】 Love&Human
ethicaでは女性のエンパワーメントを目的とした「ethica Woman Project」を発足。 いまや「ラストフロンティア」と呼ばれ、世界中から熱い眼差しが向けられると共に経済成長を続けている「アフリカ」を第1期のテーマにおき、読者にアフリカの理解を深めると同時に、力強く生きるアフリカの女性から気づきや力を得る...
持続可能なチョコレートの実現を支える「メイジ・カカオ・サポート」の歴史
sponsored 【 2025/3/19 】 Food
私たちの生活にも身近で愛好家もたくさんいる甘くて美味しいチョコレート。バレンタインシーズンには何万円も注ぎ込んで自分のためのご褒美チョコを大人買いする、なんてこともここ数年では珍しくない話です。しかし、私たちが日々享受しているそんな甘いチョコレートの裏では、その原材料となるカカオの生産地で今なお、貧困、児童労働、森林伐...

次の記事

【ethica編集長対談】動物ジャーナリスト・森啓子さん(後編)
(第48話)「”ことば”を愉しむ〜大和言葉のもう一つの魅力『言葉の成り立ち』」キコの「暮らしの塩梅」

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます