(第48話)「”ことば”を愉しむ〜大和言葉のもう一つの魅力『言葉の成り立ち』」キコの「暮らしの塩梅」
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(第48話)「”ことば”を愉しむ〜大和言葉のもう一つの魅力『言葉の成り立ち』」キコの「暮らしの塩梅」

「私によくて、世界にイイ。」が実現できる、エシカルな暮らしのカタチってなんだろう。仕事に家事に育児に……。日々生活を回すだけでも大変な私たちにとって、新しく行動を起こすのはエネルギーも時間も使うし、ハードルが高く感じてしまうもの。

でも日々の暮らしのなかで、少しでも”良い”につながることができたら?

当たり前の毎日のなかで、大切な家族も、世界も、そして私自身もほんのちょっぴり幸せになるような選択をしていけたらいいなと思うのです。

第47話では、日本に古来から伝わる大和言葉についてお伝えしました。今回の記事では、前回に引き続き、その大和言葉にあらわれる日本人の心とも言える、言葉の成り立ちについてお話ししたいと思います。

言葉の成り立ちとは

大和言葉は日本語の語種の一つで、漢語、外来語以外の、古くから日本の気候風土のなかで育まれてきた、日本ならではの言葉です。

ひらがな、もしくは漢字の訓読みで書かれる言葉で、漢語や外来語と比べると柔らかい印象を与えます。

 

大和言葉と聞くと、どこか古めかしいイメージもあるかもしれませんが、「ありがとう」「はじめる」「おもいで」「こもれび」などなど、私たちが常日ごろ使っている言葉のなかにも、たくさんあることは、前回お伝えしました。

 

そのような大和言葉ですが、もう一つの特徴として、音そのものに意味があり、一つひとつの言葉に「由来」があることがあげられます。

 

小学生のころ、国語の時間に漢字の成り立ちを習ったと思います。

例えば「月」という字は、夜空に浮かぶ三日月からの連想で産まれたものです。

 

同じように「住む」「働く」「行ってらっしゃい」など、一語一語の大和言葉にも由来が存在しています。

「ありがとう」が「有り難い」ことへの感謝の気持ちからできた言葉だという話など、耳にしたことがあるのではないでしょうか。

 

その由来を知ることで心が暖かくなるような、魅力的な言葉が日本語にはたくさんあるので、いくつかご紹介したいと思います。

身近にある言葉の由来いろいろ

・暮らし

この記事のテーマでもある「暮らし」。

漢語では「生活」と表され、この二つはほぼ同じ意味で使われますが、それぞれに抱く印象はどことなく異なるのではないでしょうか。

 

「暮らし」とは、「暮らす」という動詞から生まれた名詞です。

「暮らす」の意味は「日が暮れるまで時間を過ごす」ことを表しています。

今のように時計や電気がない時代は、太陽の動きや自然の変化に合わせて時を刻んでいました。日が出たら活動し日が暮れたら終える、その営みを「暮らし」と表現したのだと考えられます。

 

現代は、夜がふけても仕事や日常の雑事に追われて心が休まる時間が限られていますが、本来は太陽の動きとともに活動するのが、人間の生命活動にとっては自然なリズムです。

 

時には、日暮れからはゆったりと過ごしてみる。そんな本来の「暮らし」のあり方を意識してみたいものですね。

 

・住む

「一つの場所に落ち着く」といったイメージがある「住む」ですが、「住む」の語源は実は「澄む」と同じです。

乱れて濁っていたものが、落ち着いて澄んでくることを「すむ」とあらわし、建物のなかで寝起きをすると人の心が安定し、澄んだ状態になることから「住む」へと派生したと言われています。

騒音のある街中の屋外で寝泊まりすることを想像すると、わかりやすいかもしれません。

 

ちなみに、「住む」と同じ響きを持つ言葉には、「済む」もありますが、同様に「乱れていたものが落ち着く」ことから、そうあらわされています。

そんな風に「住む」ということを考えてみると、ただ毎日を過ごす場所であったお家のイメージが、なんだか変わってくるのではないでしょうか。

・こぼれる

「あ、お水がこぼれた!」などと、どちらかというと失敗など否定的な印象のある「こぼれる」ですが、実は喜ばしい場面でも使われる表現です。

「花が咲きこぼれる」「笑みがこぼれる」、散る桜をさす「こぼれ桜」などのように使われているのは、そのいい例ですね。

「こぼ」は擬音ですが、容器の中の液体がふちを超えてあふれ出ることをあらわしています。そのことから「たっぷりある」、つまり豊かさを含むニュアンスとして使われるようになったと言われています。

 

・許す

「許す」の語源は、「緩(ゆる)ます」。

両手で糸を持ってピンと張り詰めていた状態から、ふっと力を抜く。そんなイメージです。

本当に腹が立ったとき、傷ついたとき、相手のことを許すのは簡単なことではありませんが、そのネガティブな感情をずっと抱えたままでいるのもしんどいもの。

 

100%「許す」ことは難しくても、相手に対して怒りを感じた自分の気持ちを少し「ゆるめる」、そんな本来の意味で捉え直すと、少しだけ心が楽になるように感じられるのではないでしょうか。

 

・にこにこ

擬音のようなこの言葉ですが、「にこ」は古くから使われていた言葉で「和」や「柔らかい」ことを意味しています。

今は使われなくなりましたが、昔の人は柔らかい草を「にこぐさ」とあらわしていたそうです。

 

にこにこと同様、笑顔のような柔らかい表情のことを「にこやか」とも表現しますね。

 

例えば寒い日の朝、温かいお布団に包まれているときのように、「柔らかな表情」にはホッとする安心感や、自分が受け入れられているような心地よさを感じるのではないでしょうか。

ゆえに、そのような穏やかな表情や態度を「柔らかい=にこにこ」と表現するようになったと考えられています。

大和言葉を愛おしむ

かつての日本人は、神は自然、そして言葉に宿るものと考えていました。

「口にしたこと、思ったことが、現実のものとなる」、つまり、いい言葉を使えばいい出来事が、悪い言葉を使えば悪いことが起こるとされていました。

 

今もその慣習は受け継がれていて、受験のときは「落ちる、すべる」など不合格を連想させるような言葉は避けたり、冠婚葬祭などで禁句とされる「忌み言葉」があるのも、その名残です。

それほどに、言葉というものは大切に慎重に扱われてきました。

 

言葉の本来の意味を知ることで、時には背筋が伸びるような、時には気持ちが和らぐような、そんな言葉の持つ力をより感じることができます。

そうすれば、たとえありふれた言葉でも、とても大切なもののように思えてくるのではないでしょうか。

 

たくさんの言葉(情報)にあふれている現代だからこそ、この日本で生まれ、古の人々が育みつなげてくれた「大和言葉」に思いを馳せて、日本語を話す喜びを忘れずにいられたら……と思います。

<参考>
・高橋こうじ(2017)『日本の言葉の由来を愛おしむー語源が伝える日本の心ー』東邦出版
・林英臣(1998)『縄文のコトダマ』博進堂
・語源由来事典 http://gogen-allguide.com

【連載】キコの「暮らしの塩梅」を読む>>>

季子(キコ)

一児の母親。高校生のころ「食べたもので体はできている」という言葉と出会い食生活を見直したことで、長い付き合いだったアトピーが大きく改善。その体験をきっかけに食を取り巻く問題へと関心が広がり、大学では環境社会学を専攻する。

産後一年間の育休を経て職場復帰。あわただしい日々のなかでも気軽に取り入れられる、私にとっても家族にとっても、地球にとっても無理のない「いい塩梅」な生き方を模索中。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

季子(キコ)

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