読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第6章:教育の現場から編(第3節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第6章:教育の現場から編(第3節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学で社会学を学びながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第6章は「教育の現場から」と題して、全5節にわたりお送りします。東南アジアの学校教育現場を観察して得た学びをヒントに、皆さんと共にウェルビーイングについて考えていけたらと思います。

第6章 教育の現場から

第3節 究極のエンターテインメント

 みなさんにとって、「究極のエンターテインメント」とは何でしょうか?

読書、映画、漫画、音楽。世の中には娯楽、エンターテインメントと呼ばれるものは沢山ありますが、その価値は人それぞれ違います。私自身は、読書と音楽が生きがいですから、本はいつも持ち歩いていますし、家にいても移動中でも常に音楽を聴いています。暇があれば、というより暇がなくても楽しんでいる、人生の一部と言えます。

ところで、エンターテインメントの本質は、文字と音と身体表現だと私は考えています。言い換えれば、言葉と音楽と踊りです。毛糸が何本もの細い糸のよりあわせで出来ているように、エンターテインメントもその3つのよりあわせによって出来上がっているように思います。つまり、この3つが最も純粋な要素というわけです。

私がこう言うのは、ある程度経験的な根拠があるからです。というのも、どの国を旅していても、歌(言葉と音楽の組み合わせ)や踊りが人々のエンターテインメントなのです。第4章第5節「ネパール村での踊り披露」で述べたように、工業都市から最も離れているように見える山奥の村でも、歌と踊りは人々の生活を彩る非日常的な娯楽の1つです。

今回共有したいのは、そうした「究極のエンターテインメント」としての歌と踊りが、生き生きと行われる、ネパールの学校でのエピソードです。

カトマンズ郊外

ネパールの首都カトマンズは、首都と言うにはあまりにも小さい街です。中心街はほとんど徒歩でどこでも行けますし、車で30分ほど走ればもう目の前には田園風景が見えてきます。私が訪れた学校は、カトマンズの中心街から車で1時間も離れていない田舎町に佇む、割に大きな小中学校でした。生徒の多くはカトマンズ近郊に住んでおり、スクールバスが各家庭を回って生徒を集めてきます。全校生徒は100人程度で、まだ体の小さい子から、大人の顔つきをした子までいました。

私はそこで、中学生に向けて、「幸せ」に関するアクティビティを行ったのですが、その後にあった自由時間こそ、私が最も生き生きとしたエンターテインメントに触れた瞬間でした。

活動を終えて時間が余った私は、英語もなかなか通じない生徒たちとどうにか仲良くなろうと、簡単なゲームを行っていました。ネパール人の友人に、道具がなくても出来る定番のレクリエーションを教えてもらい、ドボンの生徒には罰ゲーム(罰ゲームについては第5章第2節を参照)として、皆の前で一芸披露をしてもらうというものです。実を言えば、私は子供たちに一芸披露を課すことに少し申し訳なさを感じていました。というのも、私自身が幼少期、そうして「皆の前で何かやれ」と言われることに、居心地の悪さを感じていたからです。実際そういうとき、私は何も出来ずにただ顔を赤らげて、突っ立ていたように思います。なので、誰かに恥をかかせてしまうのではないかと内心ひやひやしていたのです。

歌を披露する少年

ところが、ドボンになる生徒たちは(例外なく皆!)、恥じらいよりも歌や踊りの披露そのものを楽しんでいたのです。しかも、私のように何も出来ずにグダグダと時間を使うような子はただの1人もおらず、皆が何かしらの歌や踊りに長けていたのが驚きです。これは単に、その場にいた子供たちがたまたま歌や踊りが好きだった、というわけではないように思います。恐らくもっと環境的な要因、例えば、それが本来の活動を終えた後の余剰時間に行われたことなどが、彼らに歌や踊りの純粋な楽しさを教えていたのかもしれません。

これを説明するのはなかなか難しいですが、例えば、キャンプで焚火を囲んでいるとき、誰かが自然とリズムを打ち始めて、それに自然と歌がついてくるようなそんな感覚でしょうか。そんなとき、誰も自分が「歌を披露している」とは思っていないはずです。流れの中で、自分の番が回って来ることはありますが、それは自分を魅せる時間ではなく、共に在るため、その時間を楽しむための役割分担でしょう。

身の回りの環境は、私たちを特定の方向に導くことがありますが、「究極のエンターテインメント」というのは、設定された時間や場所ではなく、より偶発的に起こるものかもしれません。スマホも、サッカーボールも、トランプも手元になかったからこそ、身一つで完結する歌や踊りがより生き生きと、生命力に満ちた形で現れたと考えると納得できます。

私がこの連載を通して達成したいのは、実はこのようなエンターテインメントであったりします。消費するだけのエンターテインメントではなく、一体となるためのエンターテインメント。私が一方的に文章を供給し、皆さんがただそれを消費するだけではなく、連載を通して同じ空間を生き、その時間を生き生きと過ごすための文章を、読者と共に楽しむ。「読者対話型」の意味は、そこにあると思っています。

皆さんがこれを読んだ後、自分の中に「他者と何かを共有した感覚」が残れば良いな、と思います。それでは。

焚火を囲むように

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。

という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

https://www.facebook.com/ethica.jp

抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

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