読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第12章:アリストテレスとわたし(第2節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第12章:アリストテレスとわたし(第2節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第12章 アリストテレスとわたし

第2節 幸福は全ての目的である

さて、前回からアリストテレスの最も優れた書物のひとつ『ニコマコス倫理学』を読んでいます。人は何のために生きているのか。それは幸福のためである。では、幸福になるためには一体どんなことをする(どんな人になる)べきなのか。『ニコマコス倫理学』には、幸せになるための方法が書かれています。

人は幸福のために生きている。アリストテレスは『ニコマコス倫理学』の最初にそれを断言しています。何となく同意できるような気もしますが、どうしてそのように言い切れるのか、少々納得できない部分もあります。一体これは、どういう意味でしょうか?

遭遇した小さなカマキリ。古代ギリシアでは、超自然的な力の象徴とされていた。

アリストテレスによれば、あらゆる行為には目的があります。例えば、メガネをかけるのは、遠くを見るためだったり、おしゃれに見せるためだったりします。あるいは、英語を勉強するのは、資格試験に合格するためだったり、旅先で友達を作るためだったりします。どんな行為であっても、そこには目的がある。これが基本的な考え方です。

そして、目的はときに別の目的のための手段にもなります。遠くを見るのは、車を運転するためだったり、資格試験に合格するのは、会社で昇進するためだったりします。もっと言えば、車を運転するのは、目的地に行くためだし、会社で昇進するのは、お金をもっと稼ぐためだったりします。さらに、目的地に行くのは…、お金を稼ぐのは…、というように、目的は別の新たな目的をもたらします。

癒されたくて飼い始めたマリモ

ところが、もし本当に全ての行為が何かの目的のためだとしたら、目的はどこまでも際限なく続くものとなってしまいます。それはある意味で、とても苦しいものでしょう。アリストテレスは、人はそのように生きているのではない、と考えました。すなわち、どこかに究極の目的、人がたどり着きたいと願う目的があるはずだ、というわけです。そして、それこそが「幸福」だと、彼は言います。

アリストテレスはこの幸福のことを、「最高善(ト・アリストン)」と呼んでいます。それより上がない善(これは「目的」の言い換えです)ということで、「最高善」です。

そうであれば、私たちは次のように考えることができます。私たちの全ての行為は、幸福のために行われている。そしてこれは、次のように言い換えることもできます。私たちは全て幸福の途上にある。

鮮やかなガラス食器。ちなみに、アリストテレスの時代には既にガラス製品が存在していた。

この「私たちは幸福の途上にある」という考え方は、ウェルビーイングを考える上でとても示唆的です。昨今、至る所で用いられる「ウェルビーイング」という言葉に含まれるのは、「どうにか実現するもの」というイメージです。簡単に言えば、幸福を目指すべき目標として日常に組み込みましょう、という感覚です。これ自体は決して的外れでもなんでもないのですが、アリストテレスにとってみれば、ウェルビーイングというのは「既に実現の途上にあるもの」です。

私たちは幸福への道をもう既に歩いている。そのように考えると、ウェルビーイングは私たちと常に共にあるものとして感じられます。

幸福を実現すべきものと考え始めると、途端に実現への責任が襲い掛かってきます。そうではなく、幸福は今ここと繋がっているものと考えると、私たちはもっと肩の力を抜くことができるかもしれません。

黄金に輝くコガネムシ

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

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ethica編集部

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