読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第13章:肥後のあれこれ(第4節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第13章:肥後のあれこれ(第4節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

 

第13章 肥後のあれこれ

第4節 秋の日差しについて

急に冷え込む日が続き、大急ぎで冬服を出しながらふと考えていたのは、太陽の変化についてです。空気が冷たくなると、日差しの暖かみがより一層感じられます。私の通うキャンパスでも、太陽を真正面に捉えるベンチに、最近ではいつも人が座っていて、本を読んだり、お昼ご飯を食べたりしています。夏場は人気のない場所ですが、この時期にはとても心地の良い空間なようです。

確かに、秋の太陽には、夏の太陽に接しているときとは質的に違う感覚を覚えます。肌を刺すような光線の量が少ないからということもあるでしょうが、なんだかもっと親近感が沸くというか、私たちに「近いから」というような印象も受けます。

私はこの「近い」という感覚を、別の場所で感じたことがあります。私はしばらく、自分が一体どこでこの感覚を得たのかわからないでいましたが、最近になってようやく「これじゃないか」というものを思い出しました。熊本での体験です。

祖父母の家で、私が実際に寝床としていたのは、いわゆる「離れ」でした。後から増築したその部屋は、8畳ほど広さで、東側に大きな窓がついています。そこからは庭が見え、前々回紹介した彼岸花なんかも、そこから確認できます。

その部屋の大きな特徴は、毎朝差し込んでくる日の光。大きな窓から、たくさんの光が取り込まれ、部屋全体が白く輝きます。もちろん、カーテンはついていますが、私はその朝の光で目を覚ますのが好きで、いつもカーテンを開けていました。

実は私が滞在していた間、台風が2度も九州地方に接近した影響で、曇りや雨の日が何度もありました。分厚い雲が太陽を遮ってしまうために、朝の光が届かないこともしばしば。そんななかでときどきやってくる朝晴れの日は、とても貴重なものでした。

顔に光がかかり、自然に目を覚ますと、清々しい気持ちになります。その光にとげとげしさはありません。フィルムカメラで撮った光のような柔らかさと形容しても良いかもしれません。とにかくシャープさがそぎ落とされた、ぼやけた印象。かといって曖昧で混じり気のある光でもない。あの独特な朝の光は、そのようにしか言い表せない雰囲気を持っています。

私は、この時期の太陽にも似たような印象があるような気がしています。ぼんやりとしているが、掴めそうな光。遠くにあるようで、近い光。秋の太陽は、人との距離感が近い光を持っているのかもしれません。

この連載では何度か、秋が「季節の変わり目」としてどのような営為を伴っているのかという視点が登場しています。普段私たちが変わらないものとして見ている景色も、すこしずつ変化しています。フーコーの振り子のように、私たちの生活は決して同じ場所には戻りません。そうした日常の感覚的な変化に意識を添わせ、それを言語化できたなら、秋という季節に、私たちは些細な幸福を感じることができるかもしれません。

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

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ethica編集部

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