読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第15章:前よりも少しだけイイ世界(第3節)
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読者対話型連載「あなたにとってウェルビーイングとは何か」 第15章:前よりも少しだけイイ世界(第3節)

新企画「あなたにとってウェルビーイングとは何か」を担当します永島郁哉と申します。早稲田大学大学院で社会学を研究しながら、休日には古着屋に行ったり小説を書いたりします。

この連載は、ストレス社会に生きる私たちが、ふと立ち止まって「豊かさ」について考えるきっかけとなる、ささいな休憩所のようなものです。皆さんと一緒に、当たり前だと思っていた価値観を一つ一つほどいていく作業が出来たらと思います。

第15章 前よりも少しだけイイ世界

第3節 誰かに言葉を授けるとき

 1つの言葉が頭から離れないという経験はあるでしょうか。

私が何年も、事あるごとに思い出すのは、「Be Yourself. Everyone Else Is Already Taken.(自分らしくあれ。あなたは他の誰でもないのだから。)」という言葉です。日本語の情報では、オスカー・ワイルドの言葉として紹介されることが多いようですが、実際に彼がそのようなことを言った記録は見つからないそう(参考 https://quoteinvestigator.com/2014/01/20/be-yourself/)。

この言葉、よくある「偉人の言葉」っぽい感じが強烈にします。家の中を探せば、棚の奥にしまったマグカップに書かれていてもおかしくありません。よく言えば、誰にでも理解しやすい、悪く言えば、とてもチープ。私自身、とても感動したから今でも思い出すというわけはありません。でも、どうして頭から離れないのだろうかと考えると、やはりそこにはこの言葉が使われた文脈がありました。

サンディエゴのダウンタウン

私は高校2年生のころに、初めて海外に行きました。アメリカ、カリフォルニア州のサンディエゴです。両親に無理を言って、2週間の短期ホームステイプログラムに申し込みました。日中はダウンタウンの語学学校に通い、放課後にはそこでできた友達と遊ぶという生活。英語がさっぱりだった当時の私はそれなりに苦労しましたが、それでもコミュニケートできる友達が周りにいたことが救いでした。

当時のクラスメイトたちと

語学学校の授業が終わり、帰国が近づく8月下旬。友人の何人かがカリフォルニアの州旗にサインを書いてくれとお願いにきたことがありました。卒業アルバムの余白に寄せ書きをするのと同じです。それを羨ましく思った私は、近くのスーベニアショップに走り、カリフォルニア州旗を購入。手当たり次第に「サインをくれ」と言いまくり、特に話したことのない人まで巻き込みながら、余白部分を埋めていきました。そのなかの1つにあの引用があったわけです。

カリフォルニアの州旗

書き主は、ポーランドから来た女の子。クラスではとても人気者でした。休み時間に英語の本を熱心に読んでいた彼女のことを好きになりかけた人は、きっと私だけではなかったはずです。それくらい魅力のある少女でした。

緊張しながらペンを渡したとき、彼女が少しだけ迷う素振りをしていたことを覚えています。そして、あの言葉をゆっくりと書き上げました。当時の私はその言葉の意味がわからず、かといって「どういう意味?」と聞く勇気もなく、ただありがとうとだけ言ったような気がします。帰国してからやっとピンときたくらいです。

でも、どうして彼女はそれを書くとき、少し迷ったのでしょうか。引用がすぐに頭に浮かんでこなかったからでしょうか。私としてはもっと違う可能性を感じます。つまり、彼女は言葉の力を知っていたからこそ一度立ち止まったのではないか、ということです。

実際のメッセージ

誰かに言葉を授けるという行為は、人を幸せにすることもあれば、人を殺しもします。言葉の魔力はときに呪力にもなります。ある言葉を糧として生きることは、ある言葉に呪縛されることと表裏一体です。私は、彼女がそれを心得ていたからこそ、無責任にペンを走らせるのではなく、一度立ち止まったのではないかと感じています。

彼女は、言葉やメッセージに責任を持てる人でした。「Be Yourself. Everyone Else Is Already Taken. 」は、私に言葉に責任を持つということを最初に教えてくれた言葉なのです。前よりも少しだけイイ世界にするとは、そうした責任感によって支えられているのだと私は考えています。

太平洋を望むビーチ

今回の連載は如何でしたでしょうか。バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

[読者対話型連載]あなたにとってウェルビーイングとは何か

永島郁哉

1998年生まれ。早稲田大学で社会学を学ぶ傍ら、国際学生交流活動に携わる。2019年に公益財団法人イオン環境財団主催「アジア学生交流環境フォーラム ASEP2019」に参加し、アジア10カ国の学生と環境問題に取り組んだ他、一般社団法人アジア教育交流研究機構(AAEE)では学生スーパーバイザーを務め、ベトナムやネパールでの国際交流プログラム企画・運営を行っている。2019年9月より6か月間ドイツ・ベルリン大学に留学。

——Backstage from “ethica”——

今回の連載は、読者対話型の連載企画となります。

連載の読者と、執筆者の永島さんがオンラインオフ会(ZOOM)で対話をし、次の連載の話題や企画につなげ、さらにその連載を読んだ方が、オンラインオフ会に参加する。という形で、読者との交流の場に育てていければと思います。

ご興味のある方は、ethica編集部の公式Facebookのメッセージから、ご応募ください。

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抽選の上、次回のオンラインオフ会への参加案内を致します。

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ethica編集部

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