【ethica編集長対談】イオン株式会社・三宅香さん(後編)
独自記事
このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
2,989 view
【ethica編集長対談】イオン株式会社・三宅香さん(後編)

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

売上高で国内の小売業のトップを走り続けるイオン株式会社。1990年代から環境・社会貢献活動に取り組み、植樹活動や電子マネーを通じた地域貢献、再生エネルギーの導入など、多岐にわたる取り組みを展開しています。

2020年2月19日・20日の2日間、パシフィコ横浜で開催された「サステナブル・ブランド国際会議 2020 横浜」(SB 2020 YOKOHAMA)にスピーカーの一人として参加されたイオン株式会社 執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当、三宅香さんは、アメリカで過ごした幼少期を自身の原点とし、世界の中の日本の在り方に目を向けてキャリアを築いてきました。前編に続き、三宅さんの海外での経験や、現在の役職、海外から見た日本の環境意識、そして日本の女性に対するメッセージを、エシカ編集長・大谷賢太郎がお聞きしました。

国際会議で知った日本の現状、抱いた強い危機感

三宅: 現職に着任したのは2017年3月だったんですが、その年の11月にCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)に出席するように言われました。

2017年時点では、日本国内で“脱炭素”なんていう言葉はあまり使われていませんでした。“気候変動”については取りざたされてはいましたが、そんなに大きな扱いではなかったんです。「パリ協定」は知ってはいるけど……というくらいな認識だったんですが、実際に会場に行ってみると、ピケが張られていました。会場の外側で、日本に対する抗議行動が行われていたんです。

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

三宅: それは、日本はもっと気候変動に向き合うようにとか、火力発電はやめるべきだ、石炭火力を他国に輸出してはいけないとか、日本の取り組みが遅れていることを非難するものだったんです。私は日本の企業団の一人として参加していたんですが、そんな風に日本に対して抗議をされて、すごくショックで。

私はもともと海外での経験があるので、海外における日本の役割、日本の位置付けのようなものに敏感なんです。長年アメリカと日本を行き来していて、日本人としてこんなに非難された経験はそれまでありませんでした。

その後よくよく調べてみたら、日本は確かに遅れているんです。これではだめだと痛感しました。企業として何をすべきか、どういうメッセージを発信すべきか、これを機に考え始めました。あれは大きなターニングポイントでしたね。

「イオン 脱炭素ビジョン2050」広報資料より

三宅さんはCOPを終えて帰国後、経営会議で検討を続け、2018年3月に「イオン 脱炭素ビジョン2050」を発表しました。これは、省エネルギーの推進、再生可能エネルギーへの転換などを通じて、2050年に向けて「脱炭素社会」を目指す宣言です。

 

お客様に選択肢を提供し、情報を伝える

イオンは1991年から植樹活動に着手するなど、早くから環境・社会貢献活動に取り組んできた実績があります。三宅さんは、お客様に選択肢を提案し、より良い判断をするための情報を伝えていくことが企業の役割だと言います。

大谷: 便利さを追求するのか、環境への配慮を優先するのか。そのバランスが大事ですね。それを選ぶのはやはり、消費者ということになります。

三宅: 欧米と日本では、消費者の意識がだいぶ違うように思えます。レジ袋の有料化についても、日本のお客様に理解していただくのはかなり大変なことでした。

企業がどんな活動をしたとしても、最終的に判断をして行動を起こしていただくのは、消費者のみなさんです。これを選ぶと環境にこんな負荷があります、という情報を提供し、一方で負荷の少ないこういうやり方もあります、と選択肢を提示していくのが私たちの役割だと考えています。理解したうえで判断していただく取り組みが必要ですね。

大谷: イオンはこれまで、お客様の選択肢の幅を広げたり、情報の開示に努めてきたわけですね。

三宅: そうですね。それは、イオンがずっと大事にしてきた価値観の1つです。

日本の女の子に伝えたい、大切なのは「Self esteem」

大谷: エシカは「私によくて、世界にイイ。」をグランドコンセプトにしています。三宅さんにとっての「私によくて、世界にイイ。」は何ですか?

三宅: 私はいつも自然体でいることを自分のモットーにしているんです。無理をして何かを解決しようとは思いません。目の前にある正しい事に対して、1つ1つ、できる範囲で、きっちり取り組もうと考えています。

環境問題もそうです。レジ袋たった1枚の削減でも貢献できますし、ペットボトルは必ず洗ってリサイクルに回す、というような小さな取り組みの積み重ねでいいと思うんです。イオンでお買い物される時に、一般の「WAON」ではなく「ご当地WAON」(イオンが提供している寄付機能付き電子マネー)を選んでいただければ、社会課題の解決につながる寄付ができる。これも1つの地域貢献ですね。

なにも、壮大な目標を掲げる必要はないと思うんです。

Photo=Kaori Uchiyama ©TRANSMEDIA Co.,Ltd

三宅: 私が、生きる上で大切にしていることは「Self Esteem(セルフ エスティーム)」。なかなか日本語にしづらいですが、強いて言えば「自己肯定感」です。日本では「驕っている」とか「自信過剰」という言葉と紐づけられがちですが、「Self Esteem」はそれとは違います。

大谷: 「Self Esteem」、自己肯定感。それは日本人に一番足りていない要素かもしれないですね。

三宅: はい。もっと言えば、日本人の女の子に足りていない考え方だと思います。

私たちの上の世代の女性が社会の中で勝ち取ってきたものを、私たちの世代は自然体でやれるようになってきた。次の世代の女性はもう一段、もっと普通に頑張れるようになって欲しいんです。そのためにも自分のことを肯定して、自分を好きになってもらいたい。

私はもう人を育てる側の年代になってきましたから、若い人たち、特に女の子が日本で「Self Esteem」をもてるような環境を整える役割をしていきたいと思っています。まず私自身が「Self Esteem」をもち、それを表現することで、女の子たちがそれを見て育ってくれたらと思っています。

(前編)を読む>>>

イオン株式会社 執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当

三宅 香さん

幼少期と大学時代をアメリカで過ごし、1991年にジャスコ株式会社(現イオン株式会社)入社。国際事業本部配属。2002年、イオン株式会社財務部配属。同社の2020年グループビジョン策定PTリーダー、ブランディング部長を経て、2008年、クレアーズ日本株式会社代表取締役社長に就任。2013年、イオンリテール株式会社 グループお客さまサービス部長。その後、執行役員、広報部長、環境・社会貢献・PR・IR担当を兼任し、2017年より現職。

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。

創業8期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

ethica編集部

このエントリーをはてなブックマークに追加
Instagram
そろそろ知っておかなくちゃ! 水素のこと。森中絵美(川崎重工)×中村知弘(UCC)
sponsored 【 2024/3/26 】 Work & Study
2023年の記録的な猛暑に、地球温暖化を肌で感じた人も多いだろう。こうした気候変動を食い止めるために、今、社会は脱炭素への取り組みを強化している。その中で次世代エネルギーとして世界から注目を集めているのが「水素」だ。とはいえまだ「水素ってどんなもの?」という問いを持っている人も多い。2024年2月に開催された「サステナ...
【ethica Traveler】 連載企画Vol.5 宇賀なつみ (第4章)サンフランシスコ近代美術館
独自記事 【 2024/3/20 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 本特集では、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブ...
【ethica Traveler】連載企画Vol.4 宇賀なつみ (第3章)アリス・ウォータースの哲学
独自記事 【 2024/2/28 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【ethica Traveler】連載企画Vol.3 宇賀なつみ (第2章)W サンフランシスコ ホテル
独自記事 【 2024/2/14 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.2 宇賀なつみ (第1章)サンフランシスコ国際空港
独自記事 【 2024/1/31 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。 今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブルな...
【ethica Traveler】連載企画Vol.1 宇賀なつみ サンフランシスコ編(序章)   
独自記事 【 2024/1/24 】 Work & Study
「私によくて、世界にイイ。」をコンセプトに2013年に創刊した『ethica(エシカ)』では、10周年を迎える節目にあたり、エシカルでサステナブルな世界観、ライフスタイルをリアルに『感動体験』する場を特集しています。  今回は、カリフォルニア州サンフランシスコ市のエシカルな取り組みを取材!エシカ編集部と共にサステナブル...
【Earth Day】フランス商工会議所で開催するイベントにてethica編集部が基調講演
イベント 【 2023/4/3 】 Work & Study
来たる4月22日は「アースデイ(地球の日)」地球環境を守る意思を込めた国際的な記念日です。1970年にアメリカで誕生したこの記念日は、当時アメリカ上院議員だったD・ネルソンの「環境の日が必要だ」という発言に呼応し、ひとりの学生が『地球の日』を作ろうと呼びかけたことがきっかけでした。代表や規則のないアースデイでは、国籍や...
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(序章)と(第1章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/17 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開しています。今回は、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える」の序章と第1章についてのあらすじと見どころをお届け!(記者:エシカちゃん)
トランスメディア方式による新しい物語~『サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビューティーに整える』(第2章)と(第3章)の見どころを紹介!~
独自記事 【 2023/8/24 】 Health & Beauty
エシカではメディアを横断(トランス)するトランスメディア方式を採用し、読者の方とより深くつながる体験を展開中。さまざまなメディアから少しずつ情報を得、それをパズルのように組み合わせてひとつのストーリーを見出す、新しいメディア体験です。 今回は、前回に引き続き、「サステナブルな旅へようこそ!――心と身体、肌をクリーンビュ...
テーマは、ナチュラルモダン『自立した女性』に向けたインナーウェア デザイナー石山麻子さん
独自記事 【 2022/9/19 】 Fashion
株式会社ワコールが展開する、人にも自然にもやさしいを目指すインナーウェアライン「ナチュレクチュール」。オーガニックコットン100%のラインアップが注目を集め、肌あたりやシルエットの美しさが話題になっています。その期待に応える形で、今年9月に新作グループも加わりました。やさしさを突き詰めた製品は、どのような想いや経緯から...
幸せや喜びを感じながら生きること 国木田彩良
独自記事 【 2021/11/22 】 Fashion
ファッションの世界では「サステナブル」「エシカル」が重要なキーワードとして語られるようになった。とはいえ、その前提として、身にまとうものは優しい着心地にこだわりたい。ヨーロッパと日本にルーツを持ち、モデルとして活躍する国木田彩良さんに「やさしい世界を、身に着ける。」をテーマにお話を聞いた。
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【Prologue】
独自記事 【 2021/3/1 】 Health & Beauty
20年以上、トップモデルとして活躍。究極の美の世界で生きてきた冨永愛さん。ランウェイを歩くその一瞬のために、美を磨き続けてきた。それは、外見だけではない。生き方、生き様をも投影する内側からの輝きがなければ、人々を魅了することはできない。「美しい人」冨永愛さんが語る、「“私(美容・健康)に良くて、世界(環境・社会)にイイ...
水原希子×大谷賢太郎(エシカ編集長)対談
独自記事 【 2020/12/7 】 Fashion
ファッションモデル、女優、さらには自らが立ち上げたブランド「OK」のデザイナーとさまざまなシーンで大活躍している水原希子さん。インスタグラムで国内上位のフォロワー数を誇る、女性にとって憧れの存在であるとともに、その動向から目が離せない存在でもあります。今回はその水原さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がインタビュー...
[連載企画]冨永愛 自分に、誰かに、世界にーー美しく生きる。 【chapter1-1】
独自記事 【 2021/3/29 】 Health & Beauty
ファッションデザイナーが描く世界を表現するモデルは、まさに時代を映し出す美の象徴だ。冨永愛さんは移り変わりの激しいファッション界で、20年以上にわたり唯一無二の存在感を放ち続ける。年齢とともに磨きがかかる美しさの理由、それは、日々のたゆまぬ努力。  美しいひとが語る「モデル」とは?
モデルのマリエが「好きなことを仕事にする」まで 【編集長対談・前編】
独自記事 【 2018/12/24 】 Fashion
昨年6月、自身のファッションブランドを起ち上げたモデル・タレントのマリエさん。新ブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ、以下PMD)」のプレゼンテーションでは、環境に配慮し無駄を省いた、長く愛用できるプロダクトを提案していくと語りました。そして今年9月、ファッションとデザインの合同...
国木田彩良−It can be changed. 未来は変えられる【Prologue】
独自記事 【 2020/4/6 】 Fashion
匂い立つような気品と、どこか物憂げな表情……。近年ファッション誌を中心に、さまざまなメディアで多くの人を魅了しているクールビューティー、モデルの国木田彩良(くにきだ・さいら)さん。グラビアの中では一種近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼女ですが、実際にお会いしてお話すると、とても気さくで、胸の内に熱いパッションを秘めた方だと...
東京マラソンと東レがつくる、新しい未来
独自記事 【 2022/5/2 】 Fashion
2022年3月6日(日)に開催された東京マラソン2021では、サステナブルな取り組みが展開されました。なかでも注目を集めたのが、東レ株式会社(以下、東レ)によるアップサイクルのプロジェクトです。東レのブランド「&+®」の試みとして、大会で使用されたペットボトルを2年後のボランティアウェアにアップサイクルするとい...

次の記事

【ethica編集長対談】イオン株式会社・三宅香さん(前編)
お気に入りの街 ケルン

前の記事

スマホのホーム画面に追加すれば
いつでもethicaに簡単アクセスできます