【ethica編集長対談】 陶芸家 古賀崇洋(中編)
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【ethica編集長対談】 陶芸家 古賀崇洋(中編)

現在、九州を中心に活動している陶芸家・古賀崇洋さんは作品の存在感を際立たせるために「反わびさび」という新しい概念を掲げ、器全体を大小のスタッズ(突起)で覆う派手でユニークなシリーズを展開、質素で静かなものをイメージする日本人の美意識「わびさび」とはかけ離れた作品を発表しています。

前編に続き、古賀さんに「ethica」編集長・大谷賢太郎がお話をお伺いしました。

20代のうちはできる限り何でもやろう

大谷: 一口に焼き物といっても幅がすごく広いじゃないですか。その頃は何を作っていたんですか?

古賀: 器から彫刻的なものまで、ありとあらゆるものをやっていましたね。

大谷: ご自分の中に何かテーマのようなものはあったのですか?

古賀: 大きなテーマというものはなくて、とにかく20代は何でもやろうと思っていました。焼き物というのは、今、大谷さんがおっしゃったようにいろいろな側面があって、プロダクトデザイン、工業製品としての実用品もありますし、伝統工芸とか壺とかカテゴリーがたくさんあるんです。

その中で、いろいろな技術を駆使しての現代アートとか一通りやってみて、20代のうちはできる限り何でもやろうと思っていましたので、声がかかれば何でもやりました。

そういう心構えでしたから、今思うとめちゃくちゃなことをやっていましたよね(笑)。普通に買いやすい値段帯の器も作っていましたし。

ですから、その頃、ある人にいわれたことがあるんです。「古賀君は将来どういうふうになろうとしているのかが分からない」って。そりゃそうですよね、自分でも何が合うのか分からなかったんですから(笑)。

僕の場合はいろいろとやってみて、30歳手前でようやく取捨選択というか、頭のどこかに現代アートに対する憧れがありましたし、陶芸だから現代アートに行けないという風潮もおかしいと思っていたこともあって、そこらへんで小さくても日本のアート界に風穴があけられるんじゃないかということを焼き物で感じたので、30歳くらいから今のような制作スタイルでやり始めました。

アディダスとのコラボ

大谷: アディダスさんとかものすごいメジャーなブランドさんとのコラボをされているようですが、そのきっかけというのは何だったのですか?

古賀: 南青山で個展をやった時、アディダスさんがインスタで見たといってお越しになられて、それじゃあ一緒にやりましょうという、そんな感じでトントンと決まりました。まあ、一言でいってしまえば、たまたまですね(笑)。

大谷: やっぱりインスタの効果って大きいですね。

古賀: ええ、大きいですね。インスタは可能性がゼロから1になることもありますが、知られないとずっとゼロのままですから。そういった意味ではすごいツールだと思いますね、タダですし。

それでいろいろな人が取り上げてくれて、自分が思っている以上に知らないところでそういう動きが起こってきたんです。

B-OWND(ビーオウンド)との出会い

大谷: 今回のプロジェクトもそういう感じですか?

古賀: 福岡に将来、人間国宝になるような人形師の方がいらっしゃって、その方の主催で「九州のアートの力、陶芸の力」といったテーマの講演会があったんです。そこにB-OWND(ビーオウンド)でプロデューサーをされている石上さんが登壇されていて、その時にB-OWNDの仕組みとか考え方を聞いて、僕はとても感動したんです。

もともと陶芸に興味を持つ人は年齢が高めなんですけど、石上さんは僕よりもずっと年下なのに陶芸に興味を持っていて、しかも現代アートとしての可能性をめちゃくちゃ感じているという講演を聞いて、こんな若者がいるんだとビックリしました。

ブロックチェーンの仕組みとか新しさももちろん面白かったですが、それよりも石上さんの熱意や、口先だけではなくてこれだけのシステムを作っている実みたいなところに感銘を受けて、それまでの僕はオンラインをあまりやっていなかったのですが、ここならオンラインのシステムがしっかりしているので、一緒にやってみようかなと思いました。それがB-OWNDさんとの最初の出会いですね。

千利休の提唱した「詫び」の美学はコンセプチュアル・アート

大谷: 古賀さんは「Anti Wabi-Sabi」を今回の個展のテーマに掲げていらっしゃいますが、その根底に千利休に感銘を受けたというお話をお聞きしています。千利休に興味を持たれたのはなぜですか?

古賀: 焼き物をやっていると、どうしても避けては通れないのが茶道なんですね。特に戦国時代以前は、唐物、中国からの影響を受けた陶芸作品がお茶の世界でももてはやされたのですが、室町、戦国時代あたりから日本独自の発展を遂げてきました。

その中で千利休というのは偉大な人で、彼が提唱した質素な暗い空間で一杯のお茶を飲むという美学は、かなりコンセプチュアルなアートだと思います。暗い空間で手ですくうようにしてお茶を飲むというので、真っ黒なお茶碗に、その当時でいうとお城よりも高い値段をつけているということがエピソードとして伝わっていますが、それはものすごく飛んじゃっているんじゃないですかね。普通だったらお城のほうが絶対に高いはずなのに、その美学に今でいえば何十億もの値段を付けるというのはぶっ飛んでいますし、究極の洗練された考え方だと思いますね。

その当時は唐物が至上のものとされていたので、絵付けがされている、きらびやかなものが貴重だったと思います。しかし、千利休はそのような時代背景の中で存在を消す装置としての器を一番最高の美学、美術品として提示し、唐物よりも高い価格にしたという事実は、革命的な現象ですし、今までにない美的感覚だと思います。また、その「わびさび」が400~500年経った今の僕らにDNAとして日本人の美意識の中に脈々と刻み込まれているように思います。その事実はとても偉大だなと思います。これに対抗できるような美学ってなかなか生み出せませんよ。ですから、千利休やわびさびの美意識に対する尊敬の念もあります。

大谷: もう1つ、僕が古賀さんの作品を拝見していてユニークだなと思ったのが頬兜をモチーフにした作品でした。あれもいいですね。

古賀: ありがとうございます。

千利休と同じ時期に変わり兜が登場しているんですよ。変わり兜は戦国武将が戦うには到底、必要でないであろう装飾をしていた兜で、それがまたすごいんですよ。

いろいろな名だたる武将が、例えば、伊達政宗だったら三日月がついていたり、これって戦いには全く必要ないのに、「俺はこういう美術工芸品のような鎧を着ているんだぞ」という美と美の戦いのような、わびさびという禅の世界と、ド派手な文化というか、そういうものがほぼ同時期に発生しているというのが興味深くて、そこで僕は「反わびさび」だと思ったんですよ。

僕の作品を見ていただくと分かると思うのですが、存在を消す装置どころか、持って痛い、眼で見て刺激的という「反わびさび」という意識もあって、それで今回、大きなテーマに掲げています。「反わびさび」の装置として、存在をより際立たせる、その存在をいやが上にも五感に感じさせる器でやる意義があるんじゃないかと思って、金やプラチナの焼き付けをして、ハレとケでいうとハレの器を作ってみたわけです。

大谷: タイトルはアンチといっていて、表現手法も真反対のハレとケでいうとハレの表現をなさっていますけど、本音の部分でいうと千利休に対するリスペクトがあるわけですよね?

古賀: そうですね。反といいながら、逆をいえば、たぶん好きすぎるがゆえだと思いますね。その根幹があるからこそアンチというか、アンチテーゼや逆境が文化を作ってきた歴史があると思っていて、音楽でいえばロックやパンクとか、何かあればそれを打ち破ることによって文化はできると思うので、逆にいえば、ものすごく好きで、それに対するアンサーというか、勝手に自分の中にテーマを作ってやっている感じですね。

(後編に続く)

続きを読む(後編)>>>

古賀崇洋(陶芸家)

1987年、福岡県出身。2010年、佐賀大学文化教育学部美術・工芸課程卒業。

千利休に感銘を受け、作品の存在感を際立たせる意味であえて「反わびさび」を掲げる。モノに内在する力を可視化するためにスタッズを使用し、突出した人物を表現。世の中を変えていくような際立った存在を磁器によって結晶化する。

2019年、六本木ヒルズA/Dギャラリーで個展を開催。2018年、パリ三越伊勢丹での展示会に出品。2019年、人気アニメ「東京喰種」、スポーツブランド「adidas」、ファッションブランド「CoSTUME NATIONAL」、筝とEMDのパフォーマンス集団「TRiECHOES」とのコラボ作品を発表するなど活躍の場を広げている。

聞き手:ethica編集長 大谷賢太郎

あらゆる業種の大手企業に対するマーケティングやデジタルの相談業務を数多く経験後、2012年12月に『一見さんお断り』をモットーとする、クリエイティブ・エージェンシー「株式会社トランスメディア」を創業。2013年9月に投資育成事業として、webマガジン「ethica(エシカ)」をグランドオープン。2017年1月に業務拡大に伴いデジタル・エージェンシー「株式会社トランスメディア・デジタル」を創業。2018年6月に文化事業・映像事業を目的に3社目となる「株式会社トランスメディア・クリエイターズ」を創業。

創業9期目に入り「BRAND STUDIO」事業を牽引、webマガジン『ethica(エシカ)』の運営ノウハウとアセットを軸に、webマガジンの立ち上げや運営支援など、企業の課題解決を図る統合マーケティングサービスを展開中。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
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ethica編集部

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