(第1話)『パーマカルチャー』とは何か 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」
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(第1話)『パーマカルチャー』とは何か 【連載】八ヶ岳の「幸せ自然暮らし」

〜パーマカルチャーを訪ねて〜

「パーマカルチャー」という言葉をご存知ですか?“パーマネント”(永久)、“アグリカルチャー” (農業)、“カルチャー”(文化)を組み合わせた造語で、持続可能な農業をもとに、人と自然がともに豊かになるような生活の仕組みを築くための手法のことを言います。一言で言えば、自然の循環を見本にしたサステナブルな暮らし方のこと。

1970年代にオーストラリアのビル・モリソンとデイヴィッド・ホルムグレンが提唱したのが始まりと言われ、以来世界中で実践されてきました。

山梨県北杜市。八ヶ岳南麓の雑木林を開墾し、生活のすべてを持続可能なスタイルにデザインしながら暮らすパーマカルチャー・デザイナー、四井真治さん。妻の千里さん、2人の息子さんとともに家族4人でできる持続可能な暮らしを模索し、日本の風土や伝統、文化に合った方法を発展させてきました。

農具を揃えて畑を耕し、野菜やハーブを育て、ヤギや鶏を飼い、自然がもたらす恩恵を永続的に享受するその暮らし方は、さまざまな可能性に満ちあふれています。

「都会暮らしでも応用できることはたくさんあります」という四井さんを訪ね、未来を考えながら今を豊かに生きるヒントをご紹介していきます。

学びがいっぱい!四井真治さんに聞く「パーマカルチャーって何?」

——パーマカルチャーについて、わかりやすく教えてください。

ひと言で言えば、地球上に生まれた究極の持続可能な仕組みである“自然の営み(命の仕組み)”の延長上にある暮らしをデザインすることで、持続可能な社会を構築していくこと。またそれを現実し、継続していくための生活様式が「パーマカルチャー」であると考えています。

僕の判断基準は、生活がその持続可能な仕組みの“原動力”になっているかどうかです。

自然の循環に沿った暮らしを繰り返していくことで、ひとと自然が有機的に繋がり、生きものを増やしていくこと。そんな永続性のある生活システムがパーマカルチャーなのです。

——具体的に「自然の循環に沿う」とはどのようなことですか?

たとえば木の葉は地中からミネラルを集め、秋になると葉を落としますよね。地表に落ちた葉を僕らがさらに集め、堆肥にすると、それがまた木々の栄養になるという具合に自然は循環しています。我が家の石窯の中にある灰も同じです。薪を焚くことでできる灰は活きたミネラルの集合体。昔の人は、煮炊きのたびに出た灰を畑にまいていましたから、人が火を利用することで畑のミネラルがどんどん増える仕組みになっていたんです。

現代では落ち葉を集めて焚き火をしたり、薪を燃やしてできた灰を土に還したりすることも少なくなりましたが、人間がガスや石油を使い始めた昭和20年代くらいから、農業では害虫が流行り始めました。便利さのために循環が省かれた結果だと僕は考えています。

でも、人間の暮らしが環境汚染や自然破壊を引き起こすわけではないんですよ。それでは人間の存在を否定することになってしまいますから。

自然の仕組みにならった暮らしの中から地球の有機物を生み出し、それを循環させることは私たち人間にしかできません。僕たちはここでの暮らしを通し、生ゴミや排泄物を堆肥化したり、排水を微生物や植物などで浄化したりしながら環境の循環を作り出しています。つまり、ひとが暮らすことで自然が循環し、環境が守られているのです。

パーマカルチャーの原体験は幼少期に

——四井さんはどのような子供時代を過ごされたのですか?

僕は福岡県の北九州市で生まれ育ちました。子供の頃は近くの貯水池に椎の実を拾いに行ったり、家の隣の森にツリーハウスを作ったり。その下には大きな池があって、愛犬と筏にのって遊んだりしていましたね。

生きものが好きで、ザリガニとかドジョウ、ウナギなんかを大きな水槽で飼っていました。

倉庫にはたくさんの道具があって、小さな頃から父がそれを使わせてくれたことも今の暮らしに繋がっています。母は農家の生まれで、堆肥を作ったり、たくさんの木や果樹を庭に植えたりするのを見て育ちました。裁縫や自転車のパンクの修理なんかも母親に教えてもらい、子供の頃から両親にはいろんなことを教わりました。

だから僕らも、子供たちにはそれ以上のことを教えてあげたいと思っているんです。

四井千里さんから学ぶ自然と食と豊かな暮らし

——千里さんも農業にご興味があったのですか?

私も子供の頃から親戚や家族みんなで野菜や植物を育てたり、野草を採りにいったり自然と触れ合いながら育ちました。台所ではいつも母の手伝いをしていましたし、料理を作ることも当たり前のようにやっていましたね。小学生の時にハーブに目覚め、ラベンダーを植えて収穫し、ポプリを作ったこともありました。その頃から農業に興味を持っていました。“農業女子”という言葉が生まれた頃でしたね(笑)

 

——ハーブを使った料理もお得意と聞きました。

都内に暮らしていた頃、自然食品店の商品開発やメニュー作りに関わり、自然食や料理について本格的に学びました。今は、私たち家族で収穫したハーブや野菜、果物を使って四季折々、自然の恵みをまるごといただく生活を楽しんでいます。自家製堆肥・無農薬栽培で育てた素材を余すところなく使って料理をするということに、喜びと豊かさを感じます。

中学生の長男も、キッチンで料理を作ることが多くなりました。包丁とか、大人が使う調理道具も小さな頃から好きなように使わせていたので、一通りのことはできます。最近では手作りの石窯オーブンや燻製機を使って本格的な調理をすることもあります。

子供たちは2人とも手作業が大好き。夫や私と一緒に、畑仕事や動物の世話など、何でも手伝ってくれますね。

私たち家族が日々の暮らしを通して学んだことを、少しずつ皆さんにご紹介したいと思います。

 

——とても楽しみです。都会暮らしに応用できることもたくさんありそうですね。

左から、四井真治さん、畑仕事や料理、家具作りなどにも積極的に取り組む四井家の長男・木水土(きみと)くんと次男・宙(そら)くん、四井千里さん

ひとが暮らすことで「場」がより豊かになる…。ひとが暮らしを楽しむことで自然が生き生きと輝きだすような生活を実践する四井家の人々から学ぶ「暮らしの循環」。第2話は生活の基本『命の堆肥作り』についてのお話です。どうぞお楽しみに。

バックナンバーはこちらからご覧頂けます。

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四井真治

福岡県北九州市の自然に囲まれた環境の中で育ち、高校の時に地元の自然が都市開発によって破壊されてショックを受けたのをきっかけに環境意識が芽生え、信州大学の農学部森林科学科に進学することを決意。同農学部の大学院卒業後、緑化会社に勤務。長野で農業経営、有機肥料会社勤務後2001年に独立。2015年の愛知万博でオーガニックレストランをデザイン・施工指導。以来さまざまなパーマカルチャーの商業施設や場作りに携わる。日本の伝統を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャー・デザイナーとして国内外で活躍中。

Soil Design http://soildesign.jp/

四井千里

2002年より都内の自然食品店に勤務。併設のレストランにてメニュー開発から調理まで運営全般に関わり、自然食のノウハウを学ぶ。2007年より八ヶ岳南麓に移り住み、フラワーアレンジメント・ハーブの蒸溜・保存食作り等のワークショップ講師、及び自然の恩恵や植物を五感で楽しむ暮らしのアイデアを提案。

記者:山田ふみ

多摩美術大学デザイン科卒。ファッションメーカーBIGIグループのプレス、マガジンハウスanan編集部記者を経て独立。ELLE JAPON、マダムフィガロの創刊に携わり、リクルート通販事業部にて新創刊女性誌の副編集長を務める。美容、インテリア、食を中心に女性のライフスタイルの動向を雑誌・新聞、WEBなどで発信。2012年より7年間タイ、シンガポールにて現地情報誌の編集に関わる。2019年帰国後、東京・八ヶ岳を拠点に執筆活動を行う。アート、教育、美容、食と農に関心を持ち、ethica(エシカ)編集部に参加「私によくて、世界にイイ。」情報の編集及びライティングを担当。著書に「ワサナのタイ料理」(文化出版局・共著)あり。趣味は世界のファーマーズマーケットめぐり。

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

山田ふみ

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