縄文人の「自由であろうとする心」に触れる【土偶女子・譽田亜紀子さん 徹底取材⑥】
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縄文人の「自由であろうとする心」に触れる【土偶女子・譽田亜紀子さん 徹底取材⑥】

縄文遺物は海外からの評価も高い。 [左]国宝《火焔型土器》新潟・十日町市蔵(十日町市博物館保管) 写真:小川忠博 [右]重要文化財《ハート型土偶》個人蔵

現在、上野の東京国立博物館にて「縄文—1万年の美の鼓動」展が開催されています。縄文時代の国宝6件すべてが初めて一堂に揃った同展は、先日、来場者20万人を突破。かつて岡本太郎が絶賛した躍動感あふれる縄文の造形表現は、最近では若い女性たちを魅了しているようです。

「土偶女子」として、縄文時代の魅力を様々な形で発信し続けている文筆家の譽田亜紀子(こんだあきこ)さんを、ethica編集部が取材しました。

【土偶女子・徹底取材企画】として全6回でお送りしています。

【徹底取材①】1万年前の日本のものづくりから受けた衝撃
【徹底取材②】子供も外国人も、誰もが楽しめる縄文
【徹底取材③】縄文人のライフスタイル
【徹底取材④】謎だらけの縄文人の世界観
【徹底取材⑤】縄文時代の子育てはみんなで?

生きることに真摯であった時代

ethica編集部: 1万年前の私たちの祖先が、何を考え、どんな言葉を交わし、どんな思いで土偶をつくったのか。本当に興味は尽きないですね。

譽田さん: 生と死が近いということは、今の私たちとは違う感覚を持って生きていたと思います。生命をちゃんと使い切ることに対して真面目だったというか。もちろん彼らにとって、それは真面目とかいうことではなく、当時の当たり前だったのでしょうけれど。生きることに真摯であった時代である、ということは間違いないと思うんです。

ethica編集部: 近年のメディアは、大きな戦争も無く1万年存続した縄文時代の「平和」や「サステナビリティ」に焦点を当てていますね。

譽田さん: はい。ただ、安易にユートピア化してしまうのも、縄文文化の豊かさの本質から遠ざかってしまうような気がします。たしかに現代社会におけるストレスは無かったかも知れませんが、集団生活の中で、嫌なヤツもいたでしょうし、腹が立つことも当然あったと思います。当然、摩擦はあっただろうと。

何より彼らは食糧難などの切実な死活問題に常に向き合っていました。災害や病気などに対して、現代のように適切な予防や対処法がわからなければ、不安も大きいですよね。15歳までの子供たちの死亡率は50%とも言われています。そうした時代の、心のよりどころとして、土偶が生み出されたと考えられています。

譽田さんも登場するショートドキュメンタリー「縄文にハマる女子たち」。(出演:望月昭秀、譽田亜紀子/監督:山岡信貴/技術協力:壱殻出直子/制作協力:雄田哲行)

ethica編集部: そこに色んな想いや願いが詰まっているから、これだけユニークな土偶たちが生まれたんですね。最後に、譽田さんにとっての「私によくて、世界にイイ。」ことを教えてください。

譽田さん:  現代の社会って、汲々としているというか、「こうであらねばならない」ということが多くて息苦しいですよね。もちろん縄文時代にも様々な決まり事やルールはあったはずですが、そうした中で、あれだけの造形表現を生み出した「自由であろうとする心」って、生きていく上ですごく大切だと思うんです。

そうした縄文人の心に触れ、そのDNAを私たちも持っていると思えることで、「もっと自由であっても良いんじゃないか」という風に思えてきます。それは行動というより、心の持ちようとして。そういう縄文の魅力を伝えていくことで、私自身も、どこか救われているような気がするんです。

ethica編集部: 貴重なお話をありがとうございました。譽田さんの今後のご活動をとても楽しみにしています。

譽田さんは、自分の著書を多くの子供たちに手にとってもらいたいと話す。

【展覧会情報】

特別展「縄文—1万年の美の鼓動」
会期:2018年7月3日(火)〜9月2日(日)
休館日:月曜日
時間:9:30〜17:00 金曜・土曜日は21:00まで。日曜日は18:00まで。入館は閉館の30分前まで
会場:東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)
公式サイト:http://jomon-kodo.jp

譽田亜紀子(こんだあきこ)

文筆家。岐阜県生まれ。京都女子大学卒業。奈良県橿原市の観音寺本馬遺跡の土偶との出会いをきっかけに、各地の博物館、遺跡を訪ね歩き、土偶、そして縄文時代の研究を重ねている。現在は、テレビ、ラジオ、トークイベントなどを通して、土偶や縄文時代の魅力を発信する活動も行っている。著書に『はじめての土偶』(2014年)、『にっぽん全国土偶手帖』(2015年、ともに世界文化社)『ときめく縄文図鑑』(2016年、山と溪谷社)『土偶のリアル』(2017年、山川出版社)『知られざる縄文ライフ』(2017年、誠文堂新光社)『土偶界へようこそ』(2017年、山川出版社)。近著に『縄文のヒミツ』(2018年、小学館)『折る土偶ちゃん』(2018年、朝日出版社)がある。『中日新聞』『東京新聞』毎週水曜日夕刊にコラム「かわいい古代」連載中。

【イベント情報】

土偶女子 こんだあきこ 梅之木遺跡を語る(山梨県考古学協会 2018年地域大会)
日時:2018年9月23日(日) 13:30〜16:00
会場:山梨県庁防災新館1階 オープンスクエア(JR甲府駅南口より徒歩5分)
パネラー:こんだあきこ、佐野隆、櫛原功一、今福利恵
問合せ:山梨県考古学協会事務局 055-263-6441
https://sankoukyou1979.wordpress.com
主催:山梨県考古学協会、山梨県立考古博物館、山梨県立博物館、縄文王国山梨実行委員会
後援:北杜市教育委員会

記者:松崎 未來

東京藝術大学美術学部芸術学科卒。同大学で学芸員資格を取得。アダチ伝統木版技術保存財団で学芸員を経験。2011年より書評紙『図書新聞』月刊誌『美術手帖』(美術出版社)などのライティングを担当。2017月3月にethicaのライター公募に応募し、書類選考・面接を経て本採用となり、同年4月よりethica編集部のライターとして活動を開始。関心分野は、近世以降の日本美術と出版・印刷文化。

ーーBackstage from “ethica”ーー

「土偶女子」譽田亜紀子さんの取材記事、いかがでしたでしょうか? 今年10月にパリで開催される「Japonismes 2018」では、「縄文」展が開催されるそうです。まだまだ縄文ブームは続きますね。譽田さんの今後のご活動については、譽田さんのfacebookで。

【徹底取材①】1万年前の日本のものづくりから受けた衝撃
【徹底取材②】子供も外国人も、誰もが楽しめる縄文
【徹底取材③】縄文人のライフスタイル
【徹底取材④】謎だらけの縄文人の世界観
【徹底取材⑤】縄文時代の子育てはみんなで?

私によくて、世界にイイ。~ ethica(エシカ)~
http://www.ethica.jp

松崎 未來

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